認知症の親の施設費用|家を売る手順と税金
認知症の親が介護施設に入ると、入居一時金や毎月の施設費用を年金と預貯金だけで支払えるのか、不安になる方もいるでしょう。
費用が足りなければ、親の自宅を売却して施設費用に充てる方法があります。
ただし、認知症の診断を受けている親の家は、子どもが自由に売れるわけではありません。

売却の契約内容を理解できるかどうかによって、必要な手続きが変わります。
また、成年後見制度の利用や、売却時期による税金の違いにも注意が必要です。
この記事では、施設費用の計算方法、認知症の親の家を売る手順、成年後見にかかる期間と費用、3,000万円特別控除の期限まで、順番に解説します。
この記事の結論
- 親が売買契約の意味を理解できる場合は、原則として親本人が自宅を売却できます。
- 親が契約内容を理解できない場合は、成年後見などの法的な手続きが必要です。子どもだけの署名では売却できません。
- 生前売却の3,000万円特別控除は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日が期限となるため、早めの準備が重要です。
認知症の親の家を売る方法|状態別の判断表
| 親の状態 | 主な売却方法 | 家庭裁判所の許可 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
| 契約内容を理解できる | 親本人が売却 | 原則不要 | 1〜3か月 |
| 軽度の認知症で、売買の意味を理解できる | 親本人が売却。 将来に備えて任意後見・家族信託も検討 | 本人売却なら原則不要 | 1〜3か月 |
| 契約内容を理解できない | 成年後見などを利用し、必要な不動産処分許可を取得 | 自宅の売却では原則必要 | 全体で4〜8か月程度を想定 |
| 親がすでに亡くなっている | 相続関係を整理し、相続登記後に相続人が売却 | 通常は不要。 相続人の判断能力などに問題がある場合は別途対応 | 相続関係・登記・売却状況による |
※期間は一般的な目安です。家庭裁判所の審理、不動産の状況、相続人間の意見の違い、買主探しなどによって長くなる場合があります。
施設費用は、家を売らないと足りないか
結論からいうと、施設費用と親の年金収入の差額を計算し、預貯金で何年間支払えるかを確認してから、自宅を売るか判断することが大切です。
特別養護老人ホームは比較的費用を抑えやすい一方、民間の介護付き有料老人ホームでは、入居一時金や月額利用料が高額になる場合があります。
施設の種類別に見る費用の目安
施設費用は、家賃・食費・介護サービス費・医療費・日用品費など、何が含まれているかによって異なります。
| 施設の種類 | 月額費用の目安 | 費用面の特徴 |
|---|---|---|
| 特別養護老人ホーム(特養) | 約10万〜15万円 | 比較的費用を抑えやすい。 入居には原則として要介護3以上などの条件がある |
| 介護老人保健施設(老健) | 約8万〜15万円 | リハビリや在宅復帰を目的とする施設。長期間の生活を前提としない場合がある |
| 認知症対応型グループホーム | 施設による。月14万円前後の掲載費用例もある | 認知症の人を対象とした少人数での共同生活 |
| サービス付き高齢者向け住宅 (サ高住) | 施設による。 家賃や食費などに介護費用が加わる | 介護サービスが別契約になることがある |
| 住宅型有料老人ホーム | 施設によって大きく異なる | 介護サービスの利用量によって総額が変わる場合がある |
| 介護付き有料老人ホーム | 施設によって大きく異なる。月20万〜30万円超のケースもある | 入居一時金や月額費用が高額になる施設もある |

上記は概算であり、全国一律の料金ではありません。
特養・老健は居室の種類、要介護度、所得による負担軽減などで変動します。
民間施設の掲載データを集計した「いい介護」の全国相場では、入居一時金の中央値と平均値に大きな差が見られます。
| 施設の種類 | 入居一時金の中央値 | 入居一時金の平均値 |
|---|---|---|
| 介護付き有料老人ホーム | 420万円 | 1,245.2万円 |
| 住宅型有料老人ホーム | 159.4万円 | 897.2万円 |
| サービス付き高齢者向け住宅 | 18.8万円 | 135.5万円 |
| グループホーム | 12万円 | 11.6万円 |
※掲載施設データに基づく数値で、国の全施設を対象とした統計とは異なります。平均値は高額な施設の影響を受けるため、平均だけでなく中央値も確認しましょう。入居一時金が不要な施設もあります。
また、厚生労働省が公表した令和6年度の高齢者向け住まいの調査では、2024年の月額費用の平均は、介護付きの特定施設で26万1,510円、住宅型有料老人ホームで11万8,020円、サ高住(非特定施設)で15万3,952円でした。
この月額費用は家賃・共益費・基本サービス費・食費・光熱水費の合計で、介護・医療サービスの自己負担分を除いています。
出典:厚生労働省「有料老人ホームの現状と課題・論点について」
10年間の施設費用をシミュレーションする
10年間施設で生活すると仮定した場合、月額費用によって必要なお金は大きく変わります。
- 月10万円の場合:10万円 × 120か月 = 1,200万円
- 月15万円の場合:15万円 × 120か月 = 1,800万円
- 月30万円の場合:30万円 × 120か月 = 3,600万円
これは月額費用だけを単純計算した金額です。
入居一時金、医療費、日用品代、介護保険の自己負担、費用の値上がりなどは別途考慮する必要があります。
介護付き有料老人ホームでは、月額費用に入居一時金を加えると、10年間で3,000万円を超える可能性もあります。
親の年金と預貯金で足りるかを計算する
自宅を売るべきかを判断するには、施設に支払う総額ではなく、年金などを差し引いた不足額を計算しましょう。
計算式
(毎月の施設費用 − 年金の手取り月額)× 想定月数 + 入居一時金 − 預貯金
例えば、施設費用が月15万円、年金の手取りが月12万円、想定期間が10年、入居一時金が50万円、預貯金が500万円の場合は、次のようになります。
- 月々の不足額:15万円 − 12万円 = 3万円
- 10年間の不足額:3万円 × 120か月 = 360万円
- 一時金を加えた必要額:360万円 + 50万円 = 410万円
- 預貯金を差し引いた不足額:410万円 − 500万円 = マイナス90万円

この条件なら、計算上は預貯金で10年間の不足分を賄える見込みです。
ただし、医療費や修繕費、固定資産税なども考慮する必要があります。
家を売る前に確認したい5つのこと
自宅の売却を決める前に、次の順序で確認しましょう。
- 介護保険の自己負担割合
介護保険の負担割合証を確認します。所得などによって1割・2割・3割負担に分かれます。 - 高額介護サービス費などの負担軽減制度
介護サービスの自己負担額が月の上限を超えた場合、払い戻しを受けられることがあります。ただし、食費や居住費など対象外の費用もあります。市区町村に確認しましょう。 - 特別養護老人ホームの利用可能性
民間施設だけでなく特養も検討することで、毎月の支出を抑えられる場合があります。入居条件や待機状況を確認してください。 - 預貯金・保険・負債の確認
生命保険、定期預金、住宅ローンなども含め、親の資産と負債を整理します。 - 自宅に戻る可能性と家族の利用予定
退院後に戻る可能性があるか、同居予定の家族がいるか、税制上の特例を利用できる可能性があるかを確認します。
高額介護サービス費の上限は所得区分などによって異なります。
※詳しくは、厚生労働省「サービスにかかる利用料」を確認してください。
すぐに家を売らなくてもよいケース
次のような状況では、急いで売却せず、選択肢を比較することも大切です。
- 年金と預貯金で数年間の施設費用を賄える。
- 入院・施設入所が一時的で、自宅に戻る可能性がある。
- 配偶者や子どもなどが現在の家に住んでいる。
- 親が亡くなった後の売却も含めて、税制上の特例を比較する必要がある。

ただし、自宅を維持する場合にも固定資産税、都市計画税、管理費、修繕費などがかかります。施設費用だけでなく、自宅を所有し続ける費用も計算しておきましょう。
認知症でも家は売れるのか?
結論は、認知症という診断名だけで売却できるかどうかが決まるわけではなく、売買契約の意味や結果を理解できるかどうかが重要ということです。
意思能力があれば本人が売却できる
民法第3条の2では、法律行為をした時点で意思能力がなかった場合、その法律行為は無効とされています。
不動産売却では、例えば次のような点を本人が理解できるかが重要になります。
- 自宅を売却すること
- 売却価格や契約条件
- 所有権が買主に移ること
- 売却代金が自分の財産になること
これらを理解したうえで、自分の意思で売却を決められるのであれば、認知症の診断を受けていても本人が売却できる可能性があります。

ただし、判断能力は個別の契約について確認されます。
診断名や簡単な受け答えだけで、意思能力があると断定することはできません。
判断能力がない場合、子どもだけでは売れない
親が売買契約の意味を理解できない状態では、子どもが親の代わりに自分の判断で契約を結ぶことはできません。
有効な代理権がある場合を除き、成年後見などの法的な手続きが必要です。
不動産会社や司法書士が本人の意思や判断能力を確認するのは、売買契約の有効性や所有権移転登記に問題が生じることを防ぐためです。
親に内緒で売却手続きを進めても、この問題は解決しません。
委任状があれば売れるのか
委任状があれば、必ず売却できるわけではありません。
親が売却を委任する意味を理解し、自分の意思で委任できることが前提です。
意思能力がない状態で新たに委任状を作成しても、適切な代理権が成立しない可能性があります。

親が施設に入所していて外出できないだけなら、本人の意思を確認したうえで、施設での面談などを調整できる場合があります。
まずは不動産会社や司法書士に相談し、本人の意思確認の方法を検討しましょう。
今すぐ売るなら成年後見制度
親が売買契約の意味を理解できず、すでに有効な代理権もない場合、成年後見制度の利用が選択肢になります。
ただし、家庭裁判所で成年後見人が選任されれば、すぐに自宅を売れるとは限りません。
親の居住用不動産を売却するには、原則として別途、家庭裁判所の許可が必要です。
成年後見を利用して家を売る7つの手順
STEP1 必要書類を準備する
まず、申立てに必要な書類や財産状況を整理します。
主な書類・資料は次のとおりです。
- 後見開始等の申立書
- 医師の診断書など、本人の判断能力を確認する資料
- 本人の戸籍・住民票などの必要書類
- 預貯金、不動産、保険、負債などの財産目録
- 年金収入、生活費、施設費用などの収支予定
- 施設の見積書や入居契約に関する資料
必要書類は本人の状況や申立先によって異なるため、提出先の家庭裁判所で確認しましょう。
STEP2 家庭裁判所に申立てをする
申立先は、原則として本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
裁判所が公表する申立費用の基本額は、後見開始の申立手数料が収入印紙800円、後見登記の手数料が収入印紙2,600円です。これとは別に郵便切手などが必要です。
本人の精神状態について鑑定が必要な場合は、追加の費用が生じます。鑑定費用は裁判所や事案によって異なり、数万円から10万円程度を見込んでおくとよいでしょう。
出典:裁判所「後見開始」
STEP3 家庭裁判所が後見人などを選任する
家庭裁判所は、診断書などの資料を確認し、後見・保佐・補助のどの制度が適切かを判断します。
子どもなどの親族を後見人の候補者として申し立てることはできますが、候補者が必ず選ばれるわけではありません。
財産が多い場合や、相続人同士の対立がある場合、財産管理に関する問題がある場合などには、弁護士・司法書士などの専門職が選任されることがあります。

成年後見人は
①親族(家族など):約 16% 〜 19%
②親族以外(専門職):約 81% 〜 84%
と司法書士や弁護士が担当するケースが多いです。
STEP4 後見人の報酬などを確認する
専門職が成年後見人に選任された場合、本人の財産から報酬が支払われることがあります。
月2万〜6万円程度という目安が紹介されることもありますが、一律の料金ではありません。
報酬は、管理する財産や後見事務の内容などを踏まえて家庭裁判所が決定します。
成年後見は自宅を売却するためだけの一時的な制度ではありません。
売却後も、原則として本人の判断能力や生活を支援する必要がある限り制度が続くため、継続的な費用も含めて検討してください。
STEP5 不動産査定と売却条件を整理する
後見人が選任されたら、自宅の査定を依頼し、売却の必要性や価格の妥当性を確認します。
査定書、周辺の取引事例、売買契約書案、施設費用の見積書などを整理しておくと、家庭裁判所に売却の必要性を説明しやすくなります。
売却代金は本人の財産です。子どもの都合で安く売るのではなく、本人の利益を優先して売却条件を検討する必要があります。

リヤマ不動産は、実際に政権後見人の司法書士に依頼されて、不動産査定書を作成した経験があります。
STEP6 居住用不動産の処分許可を申し立てる
成年後見人などが本人の居住用不動産を売却するには、原則として家庭裁判所の許可が必要です。
現在は施設に入所していて自宅に住んでいなくても、入所前に居住していた家や将来戻る可能性がある家などは、居住用不動産に該当する場合があります。
許可申立てでは、主に次のような点が確認されます。
- 施設費用や医療費を支払うために売却が必要か
- 預貯金など、ほかの方法で費用を賄えないか
- 売却価格が相場に照らして適切か
- 本人が自宅に戻る可能性はないか
- 売却によって本人の生活や利益が損なわれないか
許可を得ないで居住用不動産を処分した場合、その処分は無効となります。
契約を進める際には、家庭裁判所の許可を前提条件とするなど、事前に専門家と手順を確認してください。
STEP7 売却代金を本人の口座で管理する
売却が完了したら、売却代金は親本人の財産として管理します。
代金は本人名義の口座に入金し、施設費用、医療費、生活費など、本人のための支出に充てます。
支出内容が分かる領収書や明細を保管し、財産管理の記録を残しましょう。
子ども自身の生活費や、ほかの家族の支出に自由に使えるお金ではありません。
成年後見の申立てから売却まで何か月かかるか
最高裁判所の「成年後見関係事件の概況(令和7年)」によると、令和7年に終局した成年後見関係事件のうち、審理期間が2か月以内だったものは約71.1%、4か月以内だったものは約93.8%でした。
これは成年後見関係事件全体の審理期間であり、自宅の売却完了までの期間を示す数字ではありません。
後見人の選任後に不動産処分許可を取得し、買主を探して決済するまでに、さらに時間がかかります。
そのため、成年後見の申立てから売却完了までは、全体で4〜8か月程度を想定し、余裕を持って進めることが大切です。事案によっては、それ以上かかることもあります。

立地や周辺環境、売り出し価格の設定によっては、売れるまでに1年以上かかるケースもあります。
家庭裁判所の許可が得られにくいケース
次のような事情がある場合は、売却の必要性や本人の利益について、慎重に判断される可能性があります。
- 預貯金や年金で施設費用を十分に賄える。
- 本人が自宅に戻る可能性がある。
- 相場より著しく安い価格で売却しようとしている。
- 売却の主な目的が子どもや孫の利益になっている。
- 売却によって本人の生活が不安定になるおそれがある。
家庭裁判所は、家族の希望だけではなく、本人の生活、財産、将来の利益を考慮して判断します。
判断できるうちに売る、または備える
親が自宅の売却を理解できるのであれば、本人が売却する方法が比較的シンプルです。
一方、現在は判断能力があるものの、将来の認知症の進行に備えたい場合には、任意後見や家族信託を検討できます。
| 項目 | 本人による売却 | 任意後見 | 家族信託 | 法定後見 |
|---|---|---|---|---|
| 利用を始めるタイミング | 本人が契約を理解できる現在 | 契約は判断能力があるうち。効力は任意後見監督人の選任後 | 契約は判断能力があるうち | 判断能力が低下した後など |
| 不動産を売却する権限 | 本人が売主として契約 | 契約で与えた代理権の範囲による | 信託契約の内容と受託者の権限による | 後見人などの権限による |
| 家庭裁判所の関与 | 通常不要 | 監督人選任などの手続きがある | 通常は家族信託自体に裁判所の許可は不要 | 居住用不動産の売却では原則として許可が必要 |
| 初期費用の目安 | 仲介手数料など | 契約内容・専門家への依頼により異なる | 契約内容・登記・専門家への依頼により大きく異なる | 申立費用のほか、鑑定費用や継続報酬が生じる場合がある |
| 向いているケース | すでに売却の意思が固まっている | 将来の財産管理などを任せたい | 数年以内の売却や、家族による財産管理を計画している | すでに本人が契約内容を理解できない |
費用は一律ではありません。
任意後見や家族信託を専門家に依頼する場合、契約内容や不動産の数、登記の有無などによって費用が変わります。
任意後見は、契約しただけではすぐに効力が生じない
任意後見は、本人の判断能力があるうちに、将来の財産管理などを任せる契約を結んでおく制度です。
実際に任意後見の効力が生じるのは、原則として判断能力の低下後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点です。
そのため、今すぐ自宅を売却したい場合、任意後見契約を新しく結ぶことが最短の解決策になるとは限りません。
家族信託は、認知症が進行してからでは難しい
家族信託は、本人が判断能力を保っているうちに、家族などに財産の管理・処分を任せる仕組みを設計する方法です。
契約の内容や受託者の権限によっては、将来の自宅売却に備えることができます。ただし、本人が契約内容を理解できない状態になってから、新たに有効な家族信託を結ぶことは原則として困難です。

すでに判断能力が低下している場合は、家族信託を新しく作れば解決できると考えず、成年後見などの利用を含めて専門家に相談しましょう。
不動産を売ったあとの税金と、売らない場合の損
親名義の家を親が生前に売却した場合、譲渡所得に関する税金は、原則として売主である親にかかります。
ただし、一定の要件を満たせば3,000万円特別控除を利用できる可能性があります。
3,000万円特別控除の期限は「3年後の年末」
以前住んでいたマイホームを売る場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。

重要なのは、期限の数え方です。
「施設に入ってから3年」ではなく、「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」が基本的な期限になります。
例えば、2026年4月に施設へ入所し、その時点で自宅に住まなくなった場合、3,000万円特別控除を利用できる売却期限は、原則として2029年12月31日です。
出典:国税庁「No.3314 過去に居住していたマイホームを売ったとき」
ただし、控除を利用するには、所有者本人が実際に居住していた家であることなど、ほかの要件も満たす必要があります。
施設に入所していても控除を利用できるのか
親が生前に自分のマイホームを売る場合、施設への入所だけを理由に3,000万円特別控除が利用できなくなるわけではありません。
一方、親が亡くなった後に、相続人が空き家を売却する場合は、別の制度である「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」が問題になります。

この空き家特例では、一定の要介護・要支援認定を受けて施設に入所していたこと、入所後から相続開始まで家屋が貸付けや他人の居住などに使われていないこと、建築時期や建物の種類などの要件を確認する必要があります。
つまり、生前売却の3,000万円特別控除と、相続後の空き家特例を混同しないことが大切です。
出典:国税庁「No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」
子どもが住むと、3,000万円特別控除は使えなくなるのか
親が生前に売る場合と、親が亡くなった後に相続人が売る場合で、扱いが異なります。
親本人が売る場合、住まなくなった後の家屋は、一定の条件のもとで、その後どのような用途に使っていても特例の対象になり得ます。
そのため、子どもが住み始めたという事実だけで、直ちに生前売却の3,000万円特別控除が利用できなくなるとは限りません。
ただし、売却先が子どもなどの特別な関係にある人の場合は、特例の適用が認められないことがあります。
一方、相続後の空き家特例は、相続した家屋が居住用や賃貸用などに使われていないことが要件となるため、相続後に子どもが住むと適用できなくなる可能性があります。
利益1,000万円なら、税金はいくら違うのか
例えば、取得費や譲渡費用を差し引いた譲渡益が1,000万円で、長期譲渡所得として通常の税率が適用される場合、税率を合計20.315%として単純計算すると、税額は約203万円です。
これに対し、3,000万円特別控除の要件を満たし、控除の対象となる譲渡益が1,000万円だけであれば、その譲渡益に対する譲渡所得税などは原則としてゼロになります。
ただし、実際の税額は所有期間、取得費、譲渡費用、適用する特例などによって異なります。所有期間が10年を超えるマイホームでは、一定の条件を満たせば軽減税率を併用できる場合もあります。
出典:国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」、国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
住民票を施設へ移すと控除は消えるのか
住民票を施設へ移したという事実だけで、3,000万円特別控除が自動的に使えなくなるわけではありません。
重要なのは、実際にどこで生活していたか、売却する家が本人の居住用財産に該当するか、期限などの要件を満たすかという点です。
また、所有者の住所が変わった場合は、登記簿上の住所変更が必要になることがあります。
2026年4月1日から住所等変更登記が義務化されているため、売却時に登記簿の住所と現住所が異なる場合は、手続きも確認しましょう。
親が亡くなってから売る場合は空き家特例も確認する
親が亡くなった後に相続人が自宅を売る場合、一定の条件を満たせば、空き家の譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度があります。
主な要件には、建築時期が1981年5月31日以前であること、区分所有建物登記のマンションではないこと、相続前に被相続人以外の人が居住していなかったことなどがあります。施設入所後の利用状況や、相続後に賃貸・居住などに使われていないかも重要です。
この特例は売却期限などの要件もあるため、生前に売る場合と相続後に売る場合で、どちらが有利かを比較することが大切です。
詳しくは、国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」をご確認ください。
生前に家を売ると相続税が増えることはあるのか
自宅を現金化すると、相続時に財産として評価される金額が変わり、結果として相続税が増える場合があります。
例えば、相続人が3人なら、相続税の基礎控除額は次の計算になります。
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
単純化した例として、相続財産のうち自宅の相続税評価額が2,000万円、その他の財産が2,500万円なら、合計は4,500万円です。
これに対し、自宅を売却して、諸費用を差し引いた現金が2,900万円になり、その他の財産2,500万円がそのまま残っていれば、合計は5,400万円になります。
この例では、現金化によって基礎控除額を超える可能性が生じます。ただし、実際の相続税は、債務、葬式費用、小規模宅地等の特例、ほかの控除などによって変わります。売却すれば必ず相続税が増えるという意味ではありません。
空き家のままにする場合も維持費がかかる
親の自宅を売却せずに空き家として残す場合も、固定資産税、都市計画税、建物の管理費、修繕費などがかかります。
さらに、適切に管理されていない空き家が「管理不全空家」や「特定空家」などに該当し、市区町村から勧告を受けると、住宅用地の税負担軽減措置が解除される場合があります。その場合、土地の固定資産税の負担が最大6倍相当になることもあります。
出典:国土交通省「空き家対策」

売却以外の方法と、名義が親以外のとき
自宅を売る以外にも、賃貸に出す、家族が住む、建物を解体するなどの選択肢があります。
ただし、親が戻る可能性、管理費用、税制上の特例などを比較して判断することが重要です。
| 方法 | メリット | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 賃貸に出す | 家賃収入を得られる可能性がある | 管理費用や修繕費がかかる。生前売却の3,000万円控除と、相続後の空き家特例では要件が異なる |
| 家族が住む | 家を維持しやすい | 将来の売却時期、使用状況、相続関係を整理する必要がある |
| 建物を解体する | 土地として売却しやすくなる場合がある | 解体費用がかかる。税制上の期限や土地売却の要件にも注意する |
| 現状のまま売る | 解体などの初期費用を抑えられる | 建物の状態や境界、残置物などにより売却条件が変わる |
| リースバックを検討する | 売却後も賃貸として住み続けられる可能性がある | 売却価格、家賃、契約期間などの条件を慎重に比較する |
リースバックは、売却後も親がその家に住み続けることを希望する場合の選択肢です。すでに施設に入所している親の施設費用を確保する目的では、ほかの売却方法と比較して検討する必要があります。
父が亡くなり、母が認知症の場合
土地や建物が亡くなった父名義のままなら、まず相続人と相続関係を整理し、相続登記を進める必要があります。

母が相続人で、遺産分割の内容を理解できない場合は、母を含む相続人の権利を適切に守るための対応が必要です。
母の相続分を考慮せずに、子どもだけで不動産を売却することはできません。
また、後見人が遺産分割協議に関わる際、後見人自身も相続人であるなど利益相反が生じる場合には、特別代理人の選任が必要になることがあります。
子どもが相続して売却する方法を選ぶ場合も、ほかの相続人の権利や母の施設費用をどう確保するかを含めて、司法書士や弁護士などに相談しましょう。

リヤマ不動産では、司法書士のご紹介は可能です。
共有名義の家を売る場合
自宅が親と子どもの共有名義になっている場合、売却する範囲や各共有者の意思表示を確認する必要があります。
判断能力がない共有者の持分を含めて売却する場合、その共有者について法的な代理権が必要になります。
共有者の一人が認知症だからといって、ほかの共有者がその持分まで自由に売却できるわけではありません。
兄弟間で意見が対立している場合も、本人の利益を第一に考えて手続きを進める必要があります。
【FAQ】認知症の親の家の売却に関するよくある質問

- Q認知症の親の家を、子どもが勝手に売れますか?
- A
原則として売れません。親本人が契約の意味を理解できない場合は、成年後見などの法的な手続きや、居住用不動産の処分許可が必要になることがあります。
- Q軽度の認知症なら、成年後見なしで売れますか?
- A
売買契約の内容や結果を理解し、自分の意思で売却を決められるのであれば、本人が売却できる可能性があります。ただし、認知症の診断名だけでは判断できないため、個別に意思能力を確認することが重要です。
- Q親が施設に入ったあとでも、3,000万円特別控除は使えますか?
- A
一定の要件を満たせば利用できる可能性があります。住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限があるため、売却時期を早めに確認しましょう。
- Q家庭裁判所の許可にはどれくらいかかりますか?
- A
成年後見の申立てから選任までの期間に加え、不動産処分許可の審理や売却活動の期間が必要です。全体では4〜8か月程度を想定し、余裕を持って準備することが大切です。
- Q子どもが成年後見人になれますか?
- A
子どもを後見人の候補者として申し立てることはできます。ただし、誰を選任するかは家庭裁判所が判断し、財産状況や親族間の対立などによっては専門職が選ばれる場合があります。
- Q家の売却代金を、子どもの生活費に使えますか?
- A
売却代金は親本人の財産です。親の施設費用、医療費、生活費など本人のために使う必要があり、子どもの生活費に自由に使うことはできません。
- Q親が認知症になると、預貯金も凍結されますか?
- A
認知症の診断を受けただけで、すべての預貯金が一律に凍結されるわけではありません。ただし、金融機関が本人の意思確認や取引の安全性を確認できない場合、取引が制限されることがあります。
- Q成年後見の申立てにはいくらかかりますか。報酬は誰が払いますか?
- A
後見開始の申立手数料は収入印紙800円、登記手数料は2,600円が基本で、郵便切手や鑑定費用などが別途必要になる場合があります。
成年後見人に報酬が認められた場合は、原則として本人の財産から支払います。
- Qすでに認知症でも家族信託を結べますか?
- A
本人が契約内容を理解できない状態では、新たに有効な家族信託を結ぶことは原則として困難です。判断能力が低下している場合は、成年後見などの制度を含めて検討してください。
まとめ|施設費用と税金を確認してから家を売る

認知症の親の施設費用を確保するために自宅を売る場合は、まず年金と預貯金で何年間支払えるかを計算しましょう。
そのうえで、親が売買契約の意味を理解できるかどうかを確認し、本人による売却が可能か、成年後見などの法的な手続きが必要かを判断します。
また、3,000万円特別控除は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日が基本的な期限です。成年後見が必要な場合は、申立てから売却完了までに相応の期間がかかるため、早めの準備が欠かせません。
親の財産を守りながら施設費用を確保するには、売却価格だけでなく、施設費用、税金、維持費、相続関係を総合的に考えることが大切です。判断に迷う場合は、不動産会社、司法書士、弁護士、税理士などに相談し、それぞれの専門分野で確認しながら進めましょう。

リヤマ不動産では、必要に応じて司法書士などの専門家をご紹介しています。
また、成年後見制度を利用した不動産売却についても、取扱実績がございます。
認知症の親御様のご自宅の売却についても、状況に応じて専門家と連携しながら、売却に向けた手続きをサポートいたします。


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