「越境物」とは何か──売却で問題になる4類型
越境物とは、自分または隣地の建物・工作物・植栽等が、境界線を越えて他方の土地上に存在している状態を指します。売却実務で頻出するのは以下4類型です。
| 類型 | 具体例 | 撤去難易度 | 売却への影響度 |
|---|---|---|---|
| 建築物系 | 屋根・軒・庇・出窓・基礎 | 高 (建替時のみ現実的) | ★★★ |
| 工作物系 | ブロック塀・フェンス・門柱・エアコン室外機 | 中 | ★★ (覚書で処理可能) |
| 植栽系 | 樹木の枝・根 | 低〜中 | ★ (改正民法233条で自己切除可) |
| 地中埋設物系 | 給排水管 ・ガス管 ・浄化槽 | 高 (掘削工事必要) | ★★★ (発覚が遅く紛争化しやすい) |
地中埋設物は外観から判別できないため、売却後にトラブル化しやすい最重要注意類型です。
境界確定測量と並行して、上下水道台帳(自治体窓口)・ガス埋設図(供給会社)を必ず取得してください。
越境物のある不動産が売れない3大理由
競合記事の多くは「売れにくい」と抽象的に述べるにとどまりますが、
本稿では買主側の意思決定プロセスに沿って構造化します。
理由①:買主の住宅ローンが通らない
金融機関は担保評価時、越境の有無を重視します。
理由は明快で、債務不履行時に競売しても買い手が付かない=担保価値が毀損するためです。
特に隣家の建物本体が越境している場合、建築基準法の「一敷地一建物の原則」に抵触し、
建築確認申請が下りリスクがあるため、買主は「建て替え不可の土地」を掴むことになります。
理由②:売主の「契約不適合責任」リスク
2020年民法改正で「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に変わり、売主の責任範囲が拡大しました。
越境物を告知せずに売却すると、買主は代金減額請求・損害賠償・契約解除を選択的に主張可能です。
「越境について故意または過失があるかどうかは問わず」土地所有権侵害と評価されるため、
「知らなかった」は免責事由になりません
東京地裁令和5年11月6日判決(掲載事例):
買主が引渡し後に地中の配水管パイプと塀基礎の越境を発見し契約不適合を主張。
裁判所は「パイプ埋設が自宅建築に大きな支障となったとは認められない」
「越境範囲が境界付近に限局され具体的支障がない」として棄却。
地中埋設物でも「建築に重大な障害」でなければ不適合とされないケースがあり
※RETIOより参照
逆に、マンション建築目的土地で隣地建物基礎が複数箇所で60cm前後越境していた事案(東京地裁平成24年12月13日)では隠れた瑕疵と認定され、経済的価値下落分の損害賠償を認容。
擁壁下部の越境やブロック塀の越境でも、説明義務違反や瑕疵が認定された事例が複数存在
(東京地裁平成25年など)。
理由③:隣地所有者との紛争を「相続」させる不安
買主にとって最大の心理的障壁は、購入と同時に見知らぬ紛争を相続する点です。
宅建業法35条は、越境物の存在を「その他重要な事項」として重要事項説明書に明記することを事実上要求しており 仲介会社経由での売却では隠しようがありません。
自側越境 vs 隣地側越境の戦略差
- 自側越境(あなたが加害者):自分の建物・工作物・植栽などが隣地にはみ出している状態。 「自分の都合で解消できる可能性が高い」が、解消義務を負いやすい。
- 隣地側越境(あなたが被害者):隣地のものがあなたの土地にはみ出している状態。 「相手に撤去を求められる」が、相手が応じない場合の交渉・訴訟コストが重く、減価も大きくなりやすい。
この違いが、売却価格・期間・ローン審査・覚書の取りやすさ・最終的な手取りに直結します。
| 項目 | 自側越境(加害側) | 隣地側越境(被害側) |
|---|---|---|
| 法的立場 | 隣地の所有権を侵害している側 | 自分の所有権を侵害されている側 |
| 原則的な義務 | 将来の建替え・改築時に自己負担で撤去する義務が生じやすい | 原則として撤去請求が可能 (民法上の妨害排除請求) |
| 減価の主な理由 | 将来の解消費用 (一部撤去・改修)が織り込まれる | 有効宅地面積の実質減少+ 交渉・訴訟コスト+紛争リスク |
| 覚書の取りやすさ | 比較的取りやすい (自分側が主体的に提案できる) | 相手が拒否しやすい (「現状で問題ない」と言われやすい) |
| ローン審査への影響 | 覚書 (建替え時撤去+第三者承継)があれば通るケースが多い | 覚書があっても「紛争リスク」として厳しく見られやすい |
| 売却時の推奨ルート | ①覚書締結→仲介 ②分筆して越境部分譲渡 ③専門買取 | ①覚書締結→仲介 ②筆界特定→訴訟 ③専門買取 (価格を下げて早期現金化) |
| 解消の現実性 | 建替えタイミングで解消しやすい(自分でコントロール可能) | 相手が応じない限り、裁判まで行かないと強制できない |
| 時効・抗弁のリスク | 自分側が時効取得を主張される可能性は低い | 相手が「20年の取得時効」や「権利濫用」を主張してくるリスクがある |
| 費用負担の傾向 | 解消費用は基本的に自分持ち | 撤去請求が認められれば相手持ちだが、訴訟費用は自分持ちになる可能性が高い |
| 手取り最大化のポイント | 覚書で「将来撤去」を明確にして減価を最小限に抑える | 早期に筆界を確定させ、紛争リスクを可視化・排除する |
売却5ルートの実務比較
競合サイトが触れない5つの出口戦略を、費用・期間・手取り額で横比較します。
| 売却ルート | 期間 | 費用(売主負担) | 相場に対する売却額 | 推奨度 |
|---|---|---|---|---|
| ①越境解消→仲介 | 6〜12ヶ月 | 測量50〜80万+ 撤去工事費 | 100% (満額) | ◎ |
| ②覚書締結→仲介 | 3〜6ヶ月 | 測量50〜80万+司法書士5〜10万 | 90〜95% | ○ |
| ③現状告知→仲介 | 6〜12ヶ月 | 測量費のみ | 70〜85% | △ |
| ④分筆→越境部分譲渡 | 4〜8ヶ月 | 測量+分筆登記30〜50万 | 90〜95% | ○ (隣地同意が前提) |
| ⑤訳あり物件専門買取 | 2週間〜1ヶ月 | ほぼゼロ | 60〜75% | ◎ |

相続案件や転居期限がある場合は⑤、価格重視なら②が最適解です。①は「越境元が自分側で、かつ建替予定がある」ケースに限定されます。
スムーズに売る5ステップ(実務プロトコル)
ステップ1:確定測量
確定測量(隣地立会い+筆界確認書作成)の費用は、
土地面積より「隣地所有者の数」と「官民境界の有無」で大きく変動します。
期間:隣地調整がスムーズなら1.5〜3ヶ月。
遠方所有者・相続未了・官民境界ありで3〜6ヶ月以上。国道・県道隣接だとさらに延びやすい。
一般的な住宅地(100〜200㎡前後、隣地3〜4軒程度):
民民境界のみで35〜60万円、官民境界(道路・水路)含むと50〜80万円が目安。
面積が大きい・隣地が多い・高低差がある場合:70〜100万円超も珍しくない。
※日本土地家屋調査士会連合会より引用
ステップ2:越境の可視化と法的評価
測量結果をもとに、どちら側からの越境か・軽微か重大かを判定します。
ここで重要なのは、2023年4月施行の改正民法233条3項により、越境した竹木の枝は以下の場合に土地所有者が自ら切除可能となった点です
- ①催告後、相当期間内に切除されないとき
- ②竹木の所有者を知ることができず、または所在不明のとき
- ③急迫の事情があるとき
改正前は判決+強制執行が必要だった手続きが、
事実上「催告のみ」で済むようになった点は、売却前準備で見逃せない実務変化です。
ステップ3:覚書の締結
覚書には必ず以下4条項を盛り込みます。
- 境界位置と越境範囲の特定(図面添付)
- 越境物の将来的処理方法(例:建替時に撤去)
- 費用負担の明確化
- 第三者承継条項(次の所有者にも効力が及ぶ)
「第三者承継条項」の欠落は、買主側金融機関が最も嫌う不備です。
ステップ4:重要事項説明書への反映
宅建業法35条に基づき、越境の事実・覚書の存在・将来撤去合意の内容を重要事項説明書に明記します。
「明示は売主責任」は通用しないという不動産取引実務の基本原則を、売主自身が理解しておくことが重要です。
ステップ5:買主属性の絞り込み
越境物のある物件は、現金購入者・不動産投資家・建替目的の実需層に訴求すべきで、住宅ローン利用の一般層をメインターゲットにすると成約率が落ちます。
査定依頼時に「越境ありでも取扱実績が豊富か」を仲介会社に必ず確認してください。
隣地所有者と交渉決裂したときの3つの手段
覚書締結を隣地所有者が拒否する事案は珍しくありません。
その場合の選択肢は以下です。
手段A:筆界特定制度(法務局)
土地の所在地を管轄する法務局に申請し、筆界特定登記官と筆界調査委員が本来の筆界を明らかにする制度です。
訴訟に比べて安価かつ迅速で、申請手数料は土地価格合計4,000万円の場合で8,000円が目安(別途測量費)
法務省。
ただし所有権の範囲を確定するものではない点は要注意で、越境物の撤去命令までは出せません。
手段B:境界確定訴訟
筆界特定に不服がある場合、または所有権紛争と一体解決したい場合の最終手段です。
越境物撤去請求と併合提起することで、根本解決が図れます。
期間は1〜3年、弁護士費用込みで100〜300万円が相場です。
手段C:分筆による越境部分の切り離し
越境されている部分を分筆し、隣地所有者に譲渡または賃貸借契約で処理する方法です。
譲渡なら越境問題は消滅、賃貸借なら地代収入化できます。
相続税評価上も有利に働く場合があります。
減価率の目安──不動産鑑定の観点から
不動産鑑定評価基準は、近隣トラブルによる減価修正を認めています。実務上の減価幅は以下が目安です。
| 越境の内容 | 減価率の目安 |
|---|---|
| 軽微(枝・室外機・雨樋の一部) | 0〜3% |
| 中程度(塀・フェンス・境界不明瞭) | 3〜8% |
| 重大(建物本体・地中埋設物) | 10〜20% |
| 建築基準法違反を伴うもの | 20〜30%超 |
※加害側(自分の建物が隣地に越境)は「将来の建替え時の解消義務・費用」が減価要因。
被害側(隣地から越境)は「有効宅地面積の実質減少+交渉・訴訟コスト」が減価要因。
覚書(将来撤去合意+第三者承継条項)があれば減価は大幅に軽減されるのが実務の定石です
「価格は相場より5%から10%下がる傾向」との実務観測とも整合します。
ただし、測量費・工事費を織り込むと手取りが逆に増えるケースもあるため、
売却前の収支シミュレーションは必須です。
よくある3つの誤解
誤解①:「取得時効で越境部分は自分のものになる」 →
一部誤り。20年占有で時効取得の可能性はありますが、覚書に「越境を認識している」と明記すると時効中断効が生じ、時効主張が困難になります。
売主保護の観点では覚書締結が優先です。
誤解②:「越境は告知しなくてもバレない」
買主側の仲介業者・金融機関・登記情報から発覚率は極めて高く、
契約不適合責任の発動リスクを負うだけです。
誤解③:「越境物撤去は隣地所有者の義務」
→ ケースバイケース。
越境元が隣地なら原則そちらの義務ですが、取得時効・権利濫用の抗弁で撤去請求が認められない判例もあります。
まとめ──2026年時点の最適解

越境物のある不動産を「早く・高く」売る最適解は、
確定測量→覚書締結→仲介売却の王道ルートです。
しかし相続案件・遠方物件・高齢売主のケースでは、隣地交渉のストレスと期間コストを避け、
金額を下げれば、訳あり購入が好きな業者/投資家が買う可能性があります。

越境物ある不動産でお悩みの方は
リヤマ不動産へお問合せください。
主要参考文献(一次情報中心)



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